遺言代用信託

最近は、「民事信託(家族信託)」ということばを頻繁に耳にするようになった気がします。

遺言代用信託は、民事信託(家族信託)の一つですが、ご家族のご事情によってはとても有効な財産承継手段になり得ます。

「信託」で「遺言」と同じことができる

遺言は、相続が開始した後、自分の財産について誰に何を残したいのか、最終の意思表示をするものです。

信託においても、元々の所有者が自分の財産について、相続開始後、誰に何を残したいのかを、信託契約において定めることができます。相続開始後はその定めに従って、財産を預かった者が遺言の執行者のように財産引継ぎの手続きを行うことになります。

これを「遺言代用信託」といいます。つまり、遺言の代わりに信託という手法を用いるということです。

遺言代用信託は、煩雑で時間のかかる相続手続きを回避するために活用されることが少なくありません。

例えば、法定相続の場合、死亡により金融機関が凍結した預金の払い戻しを受けるためには、亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍を揃えて金融機関に提出しなければなりません。その一方、遺言代用信託では、財産は生前に受託者に信託されているため、このような手続きは不要となります。

また、相続手続きにはある程度の時間がかかりますが、遺言代用信託を設定しておけば、死亡直後に必要となる葬儀費用や遺族の生活費を信託財産から工面することができます。

▶事例 施設に入居して実家が空家に

実家で一人暮らしをしているAさんのお母様が、施設へ入居するため、実家が空家になってしまうケースを取り上げてみましょう。

仮にお母様が認知症になってしまった場合、判断能力を喪失してしまうため、空家となった実家を貸すことも、処分することも難しくなってしまうでしょう。

いざ認知症となり判断能力を喪失してしまった場合、成年後見制度を利用して、後見人を選任する方法も考えられます。

しかし、後見人は、本人が所有する不動産に関する賃貸借契約は行うことができるものの、大規模な修繕や建替えを行うことは、本人のために本当に必要な行為であるかどうかという観点から家庭裁判所が判断するため、認められないケースもあるのです。さらに、成年後見制度は毎月の後見人報酬を払わないといけないので利用を控えたい、というお気持ちもあるかもしれません。

そこで、遺言代用信託はどうかというと、

お母様を「委託者」兼「受益者」、Aさんを「受託者」として信託契約公正証書を作成して、実家の名義をお母様からAさんに変更します。(信託登記)

これにより、Aさんはお母様がいざ認知症になられた後であっても、実家を管理し、場合によっては売却などの処分もできるようになるのです。その売却代金をお母様の介護費用に充てる仕組みも可能です。

ポイントは、お母様が認知症になられる前に信託契約を締結することです。

このケースのようなご家庭は珍しくないですよね。

貸家を所有されている方にも同じことが言えますので、有効な手段としてお考えください。