上手に保険を使う、シンプルな相続対策

(公財)生命保険文化センターの調査によれば、令和3年の生命保険の世帯加入率は89.8%です。
ほとんどの世帯が、生命保険に加入していて、一般的なものといえるでしょう。

また、生命保険は、将来の相続対策としても利用することができます。
「財産が多く、相続税が生じる可能性がある」方は、生命保険を上手に活用することで、将来発生する相続税の負担を軽減することができるのです。

もし金融機関に単に預けているだけという資金をお持ちでしたら、保険の活用を検討されてはいかがでしょうか。

「一時払い終身保険」という選択肢

「終身保険」とは、一生涯にわたり保障が継続する生命保険のことをいいます。
これに対して、保障期間(保険期間)が決まっている保険のことを、「定期保険」といいます。

終身保険の保険料の支払い方法には、月払い、年払い、一括払いなどがあります。
「一時払い終身保険」は、契約時に、保険料を一括で支払う終身保険のことをいいます。

では、この一時払い終身保険がなぜ相続税対策になるのでしょうか。

死亡保険金について非課税枠があります

生命保険で受け取る死亡保険金は、受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象となる相続財産には含まれません。
しかし税法上は、相続財産と同様に相続税が課税される、みなし相続財産として扱われることになります。

このようなみなし相続財産については、相続税の基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人の数)とは別の、非課税枠があります。
死亡保険金は、「500万円×法定相続人の数」が非課税枠となっていて、例えば法定相続人が3人いる場合には1500万円までは相続税がかからないことになります。

もし仮に、現金や預貯金という形で残した場合には、死亡保険金の非課税枠が適用されることはありません。
そのため、現金や預貯金に余裕がある場合は、それを一時払い終身保険という形にすることで、将来の相続税の負担を軽減することが可能になるのです。

相続税を現金納付する資金にできる

「相続財産に十分な預貯金がある場合は、相続税をそこから払えばよい」と考えている方もいらっしゃると思います。
しかし、相続財産である預貯金の払戻しを行うためには、相続人全員の合意が必要になります。

ですので、もし相続人間でもめて遺産分割協議がスムーズに進まない場合、「相続開始を知った日の翌日」から10か月以内という、相続税の申告・納税期限までに遺産分割が終わらず、相続財産から相続税を支払うことが難しい場合もあるのです。

この点、生命保険で受け取る死亡保険金は、相続財産ではなく、相続人固有の財産とされます。
そのため、遺産分割協議が成立する前であっても、受取人である相続人が保険会社に請求をすることによって、支払いを受けることができます。
したがって、生命保険を活用することによって、相続人が負担する納税のための資金を確保することができるのです。

ご高齢の方でも加入しやすい保険

一時払い終身保険は、契約時に、保険料を一括で支払う保険です。
そのため、月払いや年払いの終身保険に比べると加入条件が緩く、ご高齢の方や持病をお持ちの方でも加入しやすくなっています。

大半の方にとって、相続のことを意識するのは、ある程度の年齢を重ねてからと思います。
一時払い終身保険はご高齢の方でも加入しやすいため、相続対策としても活用しやすい保険なのです。

注意点はこちら

1.契約者と受取人の関係により、課税される税金が異なります。

① 契約者と被保険者が同じ場合

契約者と被保険者が被相続人で、受取人が相続人であるという場合には、相続税が課税されることになります。
そのため、相続税の非課税枠やみなし相続財産の非課税枠を利用することができます。

②  契約者と受取人が同じ場合

契約者と受取人が相続人で、被保険者が被相続人であるという場合には、相続人自身がかけた保険料が増えた形で保険金をもらうことになります。
そのため、増えた部分に対して所得税が課税されることになります。

③ 契約者、被保険者、受取人がそれぞれ異なる場合

契約者が被相続人の配偶者、被保険者が被相続人、受取人が被相続人の子どもであるという場合には、被相続人の死亡によって、受取人が契約者から保険金をもらうことになります。
そのため、受取人には贈与税が課税されることになります。

2.相続人間の不平等

生命保険の死亡保険金は、相続人固有の財産とされるため、遺産分割の対象となる相続財産には含まれません。

しかし、死亡保険金を受け取った相続人とそれ以外の相続人との間には不平等が生じることになります。

そのため、死亡保険金について何の考慮もしないで遺産分割を協議した場合、他の相続人から不満が生じることにより、結果として、遺産分割協議の成立まで長引く可能性があります。

まとめ

お手元に現金や単に預けているだけの預貯金がある方は、そのままの状態にしておくと、高額な相続税を相続人がが課税されるおそれがあります。

あまり活用する予定がない現金や預貯金を、一時払い終身保険の生命保険という形にするだけで、スムーズに将来の相続税の負担を軽減することが可能となります。

ご自身の相続人が複数いらっしゃる場合は、不公平感を持たれにくいようにご事情を説明したうえで、保険契約されるとよいでしょう。