相続税、優遇で負担ゼロにも

宅地、配偶者の特例活用

「夫が亡くなったら、相続税がかかりますか?」
年配の女性の心配事としてよく伺う内容です。特に住宅地にお住まいで、財産が自宅と金融資産、合わせて約5000万円以上という方に多い印象です。相続税を払うため預貯金を大幅に払い戻したり、持ち家を手放さざるを得ないのではないか、といった心配をされているのです。

2015年に相続税への課税が強化され、基礎控除(非課税枠)が「3000万円+600万円×法定相続人の数」となりました。これは、基礎控除が以前より40%ほど縮小したものとなっています。そのため、相続税の対象が、富裕層から中流層に拡大する方向となりました。

ただし、夫婦のどちらかが亡くなり、配偶者などが財産を引き継ぐ1次相続では、様々な税優遇措置があります。残された家族の生活基盤を安定させることが目的です。上手に活用すれば、相続税の負担をゼロにしたり、大幅に減らすことも可能となります。

なかでも効果的なのが、「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減特例」です。

宅地の評価8割減

まず、「小規模宅地等の特例」ですが、亡くなった人(被相続人)の所有する自宅土地について330平方メートルまで評価額を80%減らせます。預貯金を相続する場合は額面で評価するのに比べて恩恵が大きいといえます。これは、相続税を払うために自宅を売却するといった事態を避けられるようにするためです。

この特例の対象は、配偶者や子供などです。配偶者は無条件で利用できます。例えば、妻であれば、夫と別居していた場合でも特例を受けられます。

また、子供が相続する場合は、被相続人と生前に同居をしていたか、別居していたなら被相続人に配偶者や同居の子供がいなかったという条件を満たす必要があります。加えて、相続税の申告期限(死亡後10ヶ月)まで居住を続けていることも、適用を受けるために必要な条件です。生前に同居していても、死亡後10ヶ月以内に売却してしまう場合には適用がありません。

配偶者の税額軽減特例

次に「配偶者の税額軽減特例」ですが、これは、取得する財産が法定相続分または1億6千万円のいずれか多い金額まで税金がかからないというものです。取得財産が高額で1億6千万円を超えても、相続人が妻と子供なら妻の相続税は遺産全体の2分の1までゼロになります。節税効果が大きく、利用者は増加傾向にあります。

期限内に遺産分割を確定、税務の申告を

小規模宅地の特例も、配偶者の税額軽減特例も期限内に遺産分割を確定して申告することが原則になります。利用すれば、妻の相続税がゼロになる可能性は大きくなります。

相続財産が、夫所有の自宅6000万円(土地5000万円、建物1000万円)、預金3000万円の合計9000万円のケースを試算します。相続人は妻と別居で持ち家のある長男とします。

財産総額9000万円に対して、妻と長男の基礎控除は4200万円なので、このままなら相続税がかかります。そこで、妻が財産すべてを相続し、小規模宅地の特例を利用すると、財産額は5000万円に減らすことができます。これでも基礎控除を上回りますが、配偶者の税額軽減特例を利用すれば、相続税額はゼロにすることが可能になります。

注意したいのが、財産すべてを引き継ぐと、妻が亡くなった後の2次相続で子供の相続税の負担が重くなる可能性があることです。このケースでは、長男は2次相続で財産9000万円を引き継ぐと、相続税は約920万円になる計算です。

2次相続に目配りを

2次相続も含めて、負担を軽くするには、1次相続の段階からできるだけ子供の取り分を増やすことが考えられます。

例えば、1次相続で妻と長男の相続分をそれぞれ自宅3000万円、預金1500万円とします。相続税は妻が特例でゼロ、長男は約206万円になりますが、2次相続で長男の負担は約90万円に減ります。

1次と2次の合計でも約296万円となり、妻がすべてを相続する場合に比べて約7割減にすることが可能となります。

1次相続で妻と子供が遺産を分け合う場合は、妻が生活資金を確保することが大切になります。不足するなら、妻がすべてを相続することも選択肢になります。

妻の財産を少しでも多くするには、夫が生前に贈与しておくのもよい方法です。年110万円までなら贈与税もかかりません。一定の条件を満たす必要はありますが、夫の財産が減ることにもなるので、相続税の節税にも役に立ちます。